スタッフのひとりごと 1998年2月号

今月の担当は怪鳥渋谷さんです。

ハイブリッドはロードスター魂をゲットできるかな

走り出してすぐ、「電車みたいっすねぇ」と、後部座席からカメラを構えていた下町在住の敏腕中年カメラマンK氏が言った。なるほど、確かに都電が走り出す時の感じに似ている。
「それって、上手い言い方ですねぇ。そうだそうだ」運転しながら僕は感心して、それなりににぎわっている土曜日の銀座の街を走らせた。

キュイーン、と書くと大きな音みたいたけれど、プリウスは注意して聴くとこんな音をかすかに響かせて、ロードスターとは比べものにならないほど静かにするすると走り出した。イグニッションキーをひねると一度エンジンがかかるけど、すぐに止まる。そして、アクセルペダルをゆーっくりじわじわと踏んでいると、時速20キロまではモーターだけで走り続ける(30キロだったかもしれない)。どうしてそうあいまいなのか、乗って走っていればわかると思うかもしれないけれど、実はセンターコンソールの液晶ディスプレイを見ないと、いまモーターだけなのか、エンジンも働いているのかわからないのだ。アクセルペダルを深めに踏んで発進すると、最初から電気モーター+ガソリンのパワーで走り出す。立ち上がり加速は、音がないせいか速い感じはしないのだけれど、ルームミラーを見ると他の一般のクルマと同じか、それよりも速くくらい。遅い感じは微塵もない。走っていると、若者はほとんど興味を示さないが、中年以上の人は気がつくと「おっ」という顔でこのクルマを見る。やっぱり、スポーツワゴンがいいんだろうか。

たくさんの自動車評論家が「プリウス最高!」と絶賛するのはわかる気がする。なにせデリバリーが始まったばかりで、初期トラブルもあるのだろうけれど、まさかこんなに違和感なくスムーズに扱えるとは思わなかった。確かにこれは驚き!
何よりもとにかく静か。走っていると、他のクルマのいろいろな音が聞こえてきて、ふつうのクルマというのはこんなにうるさかったのかとびっくりする。働いているのかわからないエンジンの音が静けさにも驚いたが、振動のなさも凄い。直列4気筒なのだからクランクシャフトの固有振動は避けられないはずだが、モーターをサーボ 制御して振動を押さえ込んでいるせいか、それも全然感じない。ブレーキを踏むと、いや踏まなくてもアクセルを離すと、電車と同じように回生ブレーキが働いて充電が始まる。回生ブレーキの制御がまだ未熟ないせいか、ブレーキのフィーリングがどう踏んでも「カックン」と急だけれど、これは遠からずソフト的な洗練で解決される問題のはず。まあとりあえずは仕方がない。
ふつうに使っている限り、ガソリン補給すればいいだけで、燃費も25キロ走って何とか1リットルを無理矢理給油したほど超経済的(カタログ通りの数値。スタンドの親父に怒られた)と、走り操る楽しさが薄 いこと以外はとにかく、いいことづくし。好き嫌いはともかく、あのポコッとしたデザインは、見た目以上に室内も広くて快適で、個人的にはうまくできていて感心した。あとはミニバンのボディが用意されればもっと使いやすくなるし、トヨタのことだからきっともう用意されているに違いない。

たぶん、次のロードスター、つまり3代目が誕生する時は、このプリウスと同じハイブリッドか完全な電気自動車になっているのだろう(98年秋デビューと噂のあるホンダのJ−MXはスポーティさを追求しているという)。
僕はそれを楽しみにしている。でも、その時には、趣味的なクルマといえども、その面白さというのは、今僕らが思っているようなオイルや排気ガスの匂いとは無縁なものになるに違いない。チューニングする楽しみも、今よりは狭まる。それだけは覚悟しておいた方がいいだろう。今、ドイツの一部で規定の汚水処理施設がないところでないと洗車が許されないように、クルマを所有して使う際の責任が重くなる。今よりも、クルマは自由なものでなくなる。誰が何といっても、これは仕方がないことだ。

なにはともあれ一度だけだけれど、そんないろいろなことを考えさせられるクルマだった。 そうそう、最初の話に戻るけれど、電車好きの人には、ぜひ乗ってみることをおすすめします。プレステの「電車でGO!」よりは全然リアルだと思うんだけど。ちなみに、プリウスのパーキングブレーキは足で踏んで、解除も足でもう一度踏む ことになってますから注意して下さい。



スタッフの部屋に戻る


erfc@sakuramail.com